気分だけは通になる2008-07-10 Thu 23:50
少し前に「男の作法」という本を読んだ。この本は著者である池波正太郎が
自分の体験について語りおろしたものなんだけど、本人の話を直接聞いているような 文章がとても魅力的で、無性に本人に会いたくなった。 (本人はもうこの世にいないから、会うためにはあの世に行かなきゃならない。) この本には、蕎麦だとか天ぷらだとか鰻だとか、食べ物の食べ方について書いてある 部分が結構あるんだけど、その中の一つに刺身の食べ方について書いている部分がある。 そこを少し引用させてもらうと 〜もう一つ覚えておくといいのは、これはいつかも話したけれど、お刺身を食べるときに、 たいていの人はわさびを取っておいてお醤油で溶いちゃうだろ。あれはつまらないよ。 刺身の上にわさびをちょっと乗せて、それにお醤油をちょっとつけて食べればいいんだ。 そうしないとわさびの香りが抜けちゃう。醤油も濁って新鮮でなくなるしね。〜 この本の語り口に魅せられていたオレは、早速この食べ方を試してみた。 刺身にわさびを乗せて醤油をぺろっとつけたあと、わさびが乗っている部分を 舌に乗せるような感じで口の中に入れて食べると、たしかにわさびの香りがふわっと 鼻の奥のほうに上がってきて心地よい。次から次へと刺身に手が伸びて、皿の上の 刺身はあっという間になくなってしまった。なんとなく寂しい気持ちで目を落とし、 ふと醤油皿を見ると、黒く澄んだ醤油の上に脂でできた小さな輪がきらきら 浮かんでいる。いつの間にかいっぱしの刺身通になったような気分になっている 自分に気がついた。 つい前日までは刺身よりも焼き魚を好んで食べる男だったくせに。 |
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